Friday, April 6, 2012

7.1.2006 - 1.31.2012 (Part 4)

前回前々回の2回では自分のいた会社について科学面・医療面の話を中心に書きましたが、今回から自分がそこでどんな仕事をしてきたか、について書いてみたいと思います。

どんな会社であったかについて過去2回長々と書いたことを読み返して頂くのも何ですので、ここからは「米国だけで数千万人規模の患者からなる市場をターゲットとした、『血中の特定のタンパク質の濃度を測定することにより数年以内に心臓発作を起こすリスクを算出する診断テスト』を生化学と統計的データ分析を駆使して開発する会社」であるとご理解された上で読んで頂ければ幸いです(いささか自虐的ですかね…笑)。

まずは入社した経緯ですが、さかのぼれば2006年の春、ビジネススクール卒業10周年のリユニオン(同窓会)での同級生との会話が発端でした。その時、私はそれまで勤めていたスタートアップ会社(付記1)をその前の年の秋に辞め、知人のコンサルティング会社の手伝い等しながら次の機会を伺っていました(平たく言えば無職で、現在と同じ状態、ということです)。そのインド出身の同級生は卒業後コンサルティング会社に入り、MBA前は薬学博士であった、という経歴を生かして医療市場でのコンサルティングに特化し、大手バイオテクノロジー企業での提携・買収担当業務を経た後、移植の拒絶反応の有無を判定する診断テストを作るスタートアップの創業チームに入り、CFOをやっていた、という人でしたが在学中から全く異なるバックグラウンド(日本の銀行員)の持ち主である自分となぜか親しく、卒業後も間隔を置いてですが、交流が絶えなかった相手でした。

このリユニオンの席で会ったのは久しぶりぐらいだったのですが、そこで彼はつい最近CFOを兼任するCOO(付記2)として入ったという創業間もない「心臓病の診断テスト」の会社とその有望さについて熱く語っていました。それを聴いて(2人とも呑んでいる状態であったこともあり)割と軽い気持ちで「何か自分に向いた仕事できたら声かけてよ」と言ったのですが、その後6年近くどっぷりと過ごす仕事に繋がるとは全く思っていませんでした。

上で「軽い気持ち」と書きましたが、そういう言い方になったのには理由がありました。当社のようなライフサイエンスの会社、それも立ち上げ・技術開発段階にあるスタートアップの場合、雇われるのは医学や化学分野の大学院で学位を取った(付記3)プロフェッショナルが殆どで、自分のように大学は経済学部で、その後の仕事も「ビジネス」以外はやっておらず、最高学歴はMBA、という人間は入ってもあまり価値を出せない(身も蓋もない言い方をすれば「役に立たない」)、ということを理解していたため「何かあっても先々の話だよな」と思っていたのです。それこそ「日本出身」であることに何の意味も無い職場になるわけでしたし。

ところがリユニオンから一ヶ月ほどたったある日、この友人から「こないだの会社、君にやってもらえそうなポジションがあるんだけど、一度チームの皆と会わないか」という電話がかかってきました。そしてその数日後に当時借りていたパロアルトの月貸しオフィスまで出かけて行き、創業者の一人で、会社ではCSO(付記4)あるスタンフォードの医学部の研究者と、社員第一号のバイオインフォマティックスと統計担当のVP(付記5)、そしてパートタイムで参加し、その後フルタイムで入った規制担当のVPといった面々と2時間少々をかけて面談、ということになりました。この時点ではCEOはおらず、経営陣全員での合議制、といった感じでした。

当日の面談でどんな話をしたのかは今となって忘れてしまいましたが、いわゆる「採用面接」にありがちな質疑応答的なものではなく、自分のそれまでの経験を説明しつつ、先方の経歴や新しい会社での仕事を聴きつつ「通常の世間話よりは少し突っ込んだ話をする、といった感じでした。テクノロジーと医療に与えるインパクトの説明だけを聴かされているうちに時間が来た、という相手もいました。そして、同じ日、それどころか帰りの道すがらにまた同級生から電話がかかって来て「オファー(雇用条件の提示)出すことになったけどいつから仕事始められる?」となったので喜びつつも「こんないい加減で良いのかな?」と思った覚えがあります。

自分が上に書いたようなハードルにも関わらずに採用されたのは同級生の存在も当然あったのでしょうが、それだけで雇う訳はもちろん無くて「科学や技術の専門教育は受けてはいないが『何が優れているのか』『どういう市場が考えられるのか』『どんな資源が必要なのか』といったポイントを把握することはできるし、財務や法務といったビジネス周りの知識は抑えているし、スタートアップで泥臭い仕事した経験あるし、ビジネススクール出てるし…」といった最低限の安心感を与えるような会話ができたから、と思っています。面接履歴を残すような体制は当時はなかったので、その後確認したわけではありませんが(笑)。技術開発に直接関わる仕事でもないので「ベストの人材」でなくてもとにかく動かさないと始まらないのである程度使えそうで、すぐ始められるなら雇おう、という判断が面接する前からなされていたのかもしれません…というのは自己卑下が過ぎるでしょうか(笑)。

思い起こせば、自分はビジネススクール卒業後に就いた職のうち、これまで「求人広告に応募して、型通りの面接を受けて」入ったのは卒業直後の経営コンサルティングの仕事だけで、その後は知人や元同僚に誘われて「試用期間」的フェーズを経たりしつつ、気がつけば最初に雇われた仕事の枠をはみ出して自分の立ち位置を何となく築いてしまう、という形での「入社」ばかりだったようです。ただ、スタートアップの世界、それも創業段階の会社という場においてはむしろこういう「繋がりベース」の就職は人の採り方としてはコストパフォーマンスの良さ故、わりと普通だとは思いますが。

そんないきさつで4人目の正社員としてまるで潜り込むかのように(笑)入社したわけですが、そこで就いたのは財務・総務・労務(付記6)・そして一般事務という会社のビジネス周りの実務(オペレーション)の「実行部隊長」とでも言うべきDirector of Finance & Operationsいう仕事でした。その後「部下」も雇いましたが自分の専属ではなく上記のCOOやその後雇ったCEOと共有のスタッフ、といった感じでしたので、結局5年半の間「一人オペレーション部隊」であったと言えるかもしれません。別の見方をすれば、専門家集団である他の社員がそれぞれの分野に専念できるような舞台を作り支えて行く「裏方の長」であった(付記7)、と言っても良いのかもしれません。

この「裏方の長」的な役割がその後5年半の間に変化して行ったのですが、長くなりましたので今回はこのへんで…結局、入社周りの話ばかりで終ってしまいました。
  1. 医薬品企業に対し市場調査を中心としたウェブを活用したマーケティング関連サービスを提供する会社。その前に勤めていた経営コンサルティング会社の同僚が起業したところに参画し、他企業との提携関係作りや、インキュベーション施設から独立してオフィスとオペレーションを立ち上げる、といった遊軍的業務を担当していました。
  2. こうした略称に馴染みの無い方もおられるといけませんので、とりあえずCEO = 最高経営責任者、経営方針と戦略を担当、CFO = 最高財務責任者、会計・資金調達・事務オペレーションを統括、COO = 最高執行責任者、日常業務の執行を統括)、とご理解下さい。こういったCで始まる経営上層部をC-Levelと呼ぶこともあります。
  3. 「最低学歴が博士号」という状態も普通で、当社でも入社した後しばらくは「社内一番の低学歴は自分だ」という冗談を言っておりました。
  4. CSO = Chief Scientific Officer、最高科学責任者、技術開発のトップ。同じくC Level。
  5. VP = Vice Presidentですが「副社長」と訳すとどうもぴんとこないので以下VPで通します。ある事業分野の執行面のトップで「取締役(あるいはC Level)」の一段階下、とぐらいにお考え下さい。
  6. 本来はHR = Human Resourcesという「人的資源」なのですが「人事」とするとこれまた意味あいが違ってくるので「労務」としておきます。
  7. 当時はいささか自嘲的ではありましたがMaster of Everything Else (that's not medical or science) 「=(医学と科学以外)なんでも抑えている」と自称し、LinkedInの自己紹介でも使っていました。

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