Tuesday, April 24, 2012

7.1.2006 - 1.31.2012 (Part 5)

前回は入社した経緯について書かせていただきましたが、今回は入社後自分の仕事がどう変化していったかについて書こうと思います。

今回はiPad+Bluetoothキーボードという組み合わせで某コーヒー屋で下書きをし、Dropboxを経由してラップトップからブログに上げる、という作業フローでお送りしております。ラップトップを持ち歩くのが鬱陶しくなった、という以上に深い意図はありませんが。【結果的に、下書きはラップトップ上で原型を留めぬまで編集されました…別にそれはiPadの所為ではありませんが】

前回書いたように「裏方の長」といった立場で入社したわけですが、その時点では法的な会社設立とスタンフォードでの実験結果をふまえた資金調達は済んでいるものの、創業者と自分を含めた4名の社員、そして正社員になる予定の「コンサルタント」が2〜3人いるだけで会社として活動する環境やインフラは何も無い、という状態でした。実験機材やITインフラはおろか、机も椅子も、会計システムも、従業員に給料を支払い、福利厚生等を提供する仕掛けもありませんでした。Eメールが使え、最低限のIT機材の注文、ごく基本的(=自社の要件に合わせた改造が必要)な設備のある実験室付きオフィスの契約が済んでいただけ、だったと覚えています。

私の最初の仕事はそんな「何も無い」状態から会社としてつつがなく機能できるように施設・実験設備はもちろん、財務・会計・総務・労務・法務・IT・一般事務という会社の基礎機能全てにわたる「ビジネスオペレーション」を立ち上げる、というものでした。

こうした立ち上げの仕事はそれまで部分的に携わったこともあり、また門前の小僧的に聞きかじった知識があったりもしたのですが、会社の基礎機能全般の立ち上げを同時進行で、しかも責任者として遂行したことはありませんでした。もちろん全ての機能を自社内部に持つことはせず(=フルタイムの担当社員は規模が大きくなって費用に見合うまで雇うことはしない)、専門の代行業者を可能な限り使ったのですが、いくらそういった「アウトソーシング」を進めたとしても「丸投げしっぱなし」ということはまずできず、それら業者を監督すると共にイレギュラー事項を解決する「社内窓口」がどうしても必要でしたので、業者を一通り選んだ後はその役割を務めていました。オフィス総務や経理担当の社員を雇った後も会社として様々な紆余曲折を経るなかでどうしても「経営的配慮・判断」が求められるケースが耐えなかったので、結局最後までそういった仕事の「責任者」を務めていたことになります。

しかしながら、時間がたつにつれこのビジネスオペレーションの立ち上げ+運営という仕事、セットアップが一巡した後は(当然と言えば当然ですが)自分の仕事に占める比重はだんだんと下がって行きました。しかしながらここで「比重が下がった」というのは「かける時間が減った」という意味ではなく(慣れにより多少減ったのは事実ですが)自分の評価項目としての重要性が下がった、ということです。そして「立ち上げ+運営」の代わりに比重が高まってきたのが「CEOの経営執行補佐と資金調達の実務」という仕事でした。

当社は第一回目でも書いたように自分が退職するまでに3人のCEOが交代・就任したわけですが、また一方では自分が入社した時の経営陣も自分を引っ張ってくれた同級生を含め、様々な理由で会社から離れていき、結果として創業当初からずっといる経営チームのメンバー(当初はその端くれでしかなかったので、なんだか面映いですが)は自分とバイオインフォマティックス担当のVPの二人だけとなり、COOのポジションも無くなって自分もCEO直属になっている、という状態でした。

勤続年数や年功序列といったものとは全く無縁のスタートアップですので、そうやって「残っている」だけで自分の立場が上がるということはもちろん無ありません。当初の肩書に記された「財務・会計(ファイナンス)」と「ビジネスオペレーション」という事務方という二分野の仕事の「責任者・担当者」、という「経営チームの端くれ」から「CEOの補佐役+資金調達」という経営トップのすぐ近くで仕事ができるようになったのは、それら二つの担当業務が徐々に「経営者」としての視点を求められるものへと変質し、それに伴って会社への貢献度を上げる事ができたからだと思います。

まず「ファイナンス」分野においては、会社の資本構成表(付記1)と事業・資金計画モデル(付記2、以下「事業モデル」とします)の作成と管理、投資家への計画値と実績値の比較報告、そしてそれらを使った分析、という仕事を割と早い段階から任されていました。事業計画の修正が資金ニーズにどう影響するか、資金調達時の評価額などの条件が資本構成にどう影響するか、といった分析です。いわゆる「財務会計」が「経営活動記録と報告のファイナンス」であるとすれば、こうした仕事は「経営判断の情報源としてのファイナンス」とでも呼ぶべきもの(付記3)です。

そして「ビジネスオペレーション」の分野では、二ヶ月に一度といったペースで定期開催される取締役会での説明資料、そして資金調達を目的としたビジネスプラン・プレゼンテーション作り(付記4)を取りまとめる「対外コミュニケーション」の担当とでも言うべき仕事をだんだんと自分のものにしていきました。ここで「取りまとめ」とは書きましたが、各部門のヘッドが自分の担当分野について作ってくる「部署別」のページを一つのパワーポイントにまとめて見てくれを統一する、という受身姿勢の仕事で済むことはまずなく、とかく「部門の視点」で作られがちな資料を会社の最高責任者であるCEOの示す「取締役会で優先的にディスカッションしたいトピック」や「会社として伝えたいメッセージ・ストーリー」に嵌るよう編集するのみならず、担当者に「こういう資料が欲しい」と指示を出し、共同作業で欲しいものを作る、といったこともほぼ毎回行っていました。

こうした「経営判断のファイナンス」の仕事、そして「対外コミュニケーション」の仕事をして行く中で、ある時は経営モデルに入れる数字の一つ一つにつき議論し、またある時は専門的な医学上・科学上の話から「なぜ役立つのか、なぜ売れるのか」というメッセージを引き出す、といった場で必然的に社内のキーパーソン全てと密接に仕事をすることになります。それを繰り返して行く中で、結果として自分が会社全体の活動を俯瞰的に把握できる「情報中枢」や「調整役」、あるいは「会社組織の繋ぎ手」といった存在として、仕事の成果物(分析結果や資料)に加えて「経営へのインプット」を行うことが可能になり、価値を出す事ができるようになったと思います。

加えて、自分の中でも、こうした仕事に対する自覚や姿勢も当初の「上からの指示に従って」昔取った杵柄(付記5)のエクセルやパワーポイントのスキルを駆使して取り組む「担当者」の姿勢から、まず人が入れ替わる中でまず「誰もイニシアチブとらないなら自分がやらなきゃ」と考えはじめ、そしてCEOと二人三脚で何度にも及んだ資金調達や様々な経営上のハードルを越える中で「これは自分のような『ものの作り手』ではない者が会社作りに最も貢献できる分野だ」という自覚に変わって行き、最終的には二回目で書いた"Builder"が「自分の仕事である」という意識に到達したのだと思います。

こうして言葉にしてしまうとどうしても口幅ったくなってしまうのですが、こうやって自分の仕事内容と自覚をレベルアップした結果、CEOの副官・主席補佐官・側用人のような役割、そして資金調達の実務担当、という経営トップにごく近いところで仕事ができるようになったわけです。

上に「資金調達の実務担当」と書いたことについてここで書き添えておきたいですが、投資家に会社の将来性いを売り込み、条件の交渉をするのはCEOの仕事であって、自分が行っていたのはそうした「売り込み・交渉」にCEOが十二分の準備で臨めるようサポートする様々な(経営モデルや資本構成表のシミュレーションなどの)分析やビジネスプランのプレゼンテーション資料作り、投資家が投資実行前に行う会社の「精密検査」であるデューディリジェンス(due diligence、付記6)の会社側窓口、投資実行時に弁護士が作る契約書のレビューと編集、既存の株主との事務上の様々なやりとり、といった仕事でした。ですので自分で「お金を集めた」とは口が裂けても言えませんが、CEOと二人三脚で「お金を確保してきた」とは言っても良いでしょうか。

そしてDirector of Finance & Operationsとして入社した自分でしたが、こうした仕事内容の変遷を後から追うような形ではあったものの昇格もさせて頂き、退職時にはVice President, Corporate Finance & Business Operationsという肩書になっておりました。

肩書が「格上げ」されたこと自体にはさほど意味はない、などと言うつもりは毛頭無いですが(普通に喜んでました)自分にとって最大の「成果」は総計数千万ドルに及ぶ幾度もの資金調達を手がけたこと、様々な課題を乗り越えて会社をゼロから「売る製品がある」段階まで発展させたことであったと思います。

以上長くなりましたが、5年半の間の「自分の変化」について一通りはカバーできたと思いますので、今回はこの辺で。毎度のことですが、乱筆乱文はお許し下さい。

そろそろまとまって書けるネタも無くなって来たような気がしてきましたが…。

  1. 英語ではCapitalization (Cap) Table。単純に説明すれば、普通株(株式公開前のスタートアップの場合、通常は従業員が持つ)、そして優先株(ベンチャーキャピタルは通常こちらを保有、普通株に比べ色々有利な条件が付いている)、及びストックオプション・ワラント等の発行残高を記録し「誰が発行済株数の何%を保有しているか」という会社の資本構成を表示するものです。資金調達交渉というのはこの%を巡る駆け引きである、と言うことも可能。投資家への報告情報としては、財務諸表と同じか、あるいはそれ以上に重要なものです。私はストックオプション発行、発行枠管理等の株式報酬関連の事務も併せてやっていました。
  2. 会社の事業計画に基づき、売上やコスト(人員計画も含め)、設備投資等に関する様々な数値をインプットとして、財務諸表を計算するモデル。通常はエクセルで作成。
  3. 当社では財務会計(Accounting)のfinanceと区別つするため、Corporate Financeという名称を使っていました。
  4. 銀行やリース会社との取引、オフィスを借りる際、役所からなにがしかの認可を受ける際にもこうした資料を求められることがありました。
  5. 経営コンサルタントの時の訓練と自学自習が生きました(笑)。
  6. デューディリジェンスについてはこちらを参照。

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